第9回 (財)日本ダム協会ホームページ 写真コンテスト
"D-shot contest"
入賞作品および選評


各委員の選評

第9回D-shotコンテストは、318点の作品応募がありました。これらの作品を対象に最優秀賞、優秀賞、入選作品の選考を、平成24年2月28日に日本ダム協会にて行いました。
その結果、今回は下記の作品が選ばれました。
作品毎の選評は、西山芳一審査委員長および窪田陽一委員、安河内孝委員によるものです。

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最優秀賞
「月夜の越流」
高知県・高藪取水堰
撮影者:Hisa
<選評・西山芳一>
  広角レンズの使い方が絶妙です。レンズの中心点を外すことなくセンターに持ってきたことにより、箱庭的ではありますが一枚の写真の中に凝縮された世界観を整然と収めています。 そして、静と動、明と暗といった陰陽の世界だけでなく、時間までをも表現できましたね。 高価な盆栽に匹敵するような素晴らしい作品です。





「ダム本体」部門

優秀賞
「Non Straight World」
奈良県・坂本ダム
撮影者:3A
<選評・窪田陽一>
  この静けさは何なのだろう。 現地では落水の轟音が大地を揺るがすほどであったろうに、この作品には静謐が宿っていると表現したくなる面持ちがある。 緩やかに曲面を描く現代建築の壁面の最上階の一列に並ぶ窓から上質のシルクの布を中庭に向かっていっせいに投じたような、 柔らかなそして温かみのある手触りさえ伝わってくる質感を覚える。 上部全幅を占める漆黒の闇が無音の虚空となり、昼間であれば視野に入るであろう背景の雑音が見事に消去されている。 現代作曲家武満徹の随筆『音、沈黙とはかりあえるほどに』を思い起こさせる。 光は闇があることによりその存在と形が際立つことを示した、端正な品格が漂う作品である。




入選入選
「星ふって」
岡山県・苫田ダム
「早朝・ひざし」
高知県・永瀬ダム
撮影者:ベジェ夫 撮影者:KIYOTAKA
<選評・窪田陽一>
  満天の星空の下に古代遺跡の如く鎮座するダムの姿を光の造形として真正面からとらえた佳作である。 星座との対応関係がうかがわれる古代遺跡を想起する必要はないが、 宇宙の中にあるダムという感興をひき起こしそうな不思議な雰囲気が漂う作品が成立し得ることを示したと言える。 惜しむらくは、視線が空に向き過ぎていることだ。 夜空に圧倒されたかのような表現の作画に見えるが、もう少しダム本体が構図の中心寄りに位置していれば、 ダムの存在感が天空と大地の狭間で際立ったのではなかろうか。
<選評・窪田陽一>
  朝の陽光と影が織りなす幾何学模様とダム本体の形態が立体的に組み合い、そこに赤い鉄部と黒ずんだコンクリートの色彩が対比的に貫入するという、抽象的な現代造形 美術のような非日常的感覚をもたらす作品である。 ダム本体の各部分が、本来与えられている機能とは別の様相を持つ形象として眼前に立ち現れた瞬間を、極めて禁欲的にとらえている。 明暗のコントラストが強すぎたためか、明部が白く飛んでいる点が気になるが、作画の意図であるとすれば、それもよしとしよう。 暗部の比率が明部より多めであること、鉛直性にわずかながら欠けていることも惜しい気がする一方で、 ダムの重量感と安定感に対するアイロニーを深読みさせるような謎解きができそうにも見える。




「ダム湖」部門

優秀賞
「むらさきの朝」
岐阜県・徳山ダム
撮影者:ベジェ夫
<選評・安河内孝>
  最初に見た時は夕方から夜半にかけての写真かと思いましたが、題名を見て朝に撮影されたことが分かり、驚きました。 どちらかと言えば朝日は紫になることは少なく、恐らく雲などの要因で、このような幻想的な写真が撮影されたと思います。 どのような気象条件でこのような写真が取れるのか興味が持たれます。 上中下のバランスも良く、取水塔などのピントも素晴らしく、基本である水平も完璧です。 早朝の撮影なので、前日の夜から待機して撮影されたものと思います。 写真の素晴らしさとその努力を評価して選定しました。 今後も美しいダム撮影を期待します。  


入選入選
「HUNTER」
大阪府・沢池
「春来」
三重県・君ヶ野ダム
撮影者:のい 撮影者:3can4on
<選評・安河内孝>
  この写真は、取水塔と少しの湖及びカマキリが小さいアブを捉えているのが撮影されています。 ただそれだけですが、このような昆虫が数多く生存していることは素晴らしいことです。 ダムの建設の目的は治水や利水などですが「自然との共生」もその一つと思います。 確かにダム建設中は自然界にダメージを与えていますが、完成後はダム湖があるため数多くの動植物が生息しています。 その一瞬を見逃さずに撮影していることで選定しました。 もう少しダム本体や湖が写っていると良いのではと思います。
<選評・安河内孝>
  湖に蛇行して陰影が撮影されています。この陰影が写真にインパクトを与えていると思います。 この陰影で題名のように、まさに桜即ち春が流れて来ているように感じられます。光と影と風などが協力していないと撮影できない写真です。 狙ったというより一瞬を感じ取って撮影されたと思い、選定しました。湖と桜とのバランスも素晴らしいと思いますが、やや画質が粗く感じられます。 今後撮影する時、画素数をあげて撮影して下さい。 今後も美しい日本を撮影し、投稿される事を期待します。



「工事中のダム」部門

優秀賞
「静寂の動」
栃木県・湯西川ダム
撮影者:dashelo
<選評・西山芳一>
  強いていえばケーブルクレーンから下がったバケットが斜めになって走っている姿が撮れれば、より「動」の表現になったでしょうね。 しかし、タイミング、構図共に絶品です。 両方の山裾が光源をカットしてダムを浮き立たせてくれたこと、夜霧が味方して素晴らしい演出をしてくれたこと、自然に感謝しなければいけない作品ですね。  






「ダムに親しむ」部門

入選入選
「国体カヌー」
山口県・阿武川ダム
「犬走りの猫」
埼玉県・宮沢溜池ダム
撮影者:kaiyu 撮影者:大倉裕史
<選評・安河内孝>
 この写真はカヌーの競技全体を撮影したノーマルであるが、恐らくこの競技に参加した選手や関係者は、ダムの大きさ、美しさや素晴らしさに感激したものと思い、選定しました。 ダムの天端から、ダム下流面を入れて撮影したら、もっと面白かったのでは思います。いろいろな場所から撮影を試みて下さい。 今後、ダム直下でこのような競技が行われる事は少ないかと思い、そのチャンスを逃さなかった事を評価しました。
<選評・安河内孝>
  本来ならば入賞しない写真かと思いますが、題名を見たときフフフと笑いが出てきました。 何故ならば法面などに設置された小段を「犬走り」と称するからです。恐らく撮影者はその意味を理解して撮影したものと思います。 また、四匹の猫が写っています。これらの猫にとって、ダム周辺は餌場であり、寝グラであると思います。 猫にとって、最もダムに親しんでいるように感じられました。 もう少しダム本体又は湖を入れて撮影されたらと思います。猫を捨てることは法律に違反します。注意して下さい。





その他

入選入選
「黒部の太陽」
富山県・黒部ダム
「厳冬の街」
長野県・奈川渡ダム
撮影者:山口 勲 撮影者:あつだむ宣言!
<選評・西山芳一>
  同名の映画の「太陽」はダムに通ずるトンネルを掘り貫く屈強な人達やその貫通への希望を暗に表しているのでしょうが、この作品の「太陽」は厚い雲に遮られ非常に弱々しくみえます。 しかし、沸き立つ暗雲、堤体を越えようとする放水の水しぶき、そして時を感じさせるダム面が妙な不安感を与え、嵐の前のような雰囲気さえ感じるドラマチックな作品に仕上がっています。
<選評・西山芳一>
  比較的初期に造られた巨大アーチダムの右岸下流の山留め部を積雪時に撮影した作品です。 雪のない時期にはコンクリートとロックボルトによって強引に山を留めた姿が自然を虐めているようで哀れにも見えますが、 その構造物をかつては華やいだ時代もあったろう山奥にふと現れる鉱山住宅群のような、山に張り付く「街」に見立てたところが素晴らしい発想だとおもいます。



全体評


審査委員プロフィール
西山芳一 (土木写真家)

  やはり昨年と同じく夜景と雪景色、そして水面反射を捉えた作品が目立ちましたが、今年の入賞作品を往年のものと見比べて頂けたら判るとおり、 かなり腕が上がっています。 それは、昨年の私の全体評に反発してなのでしょうか?(だとしたら敢えて書いた甲斐がありましたが・・・)。 いずれにしても徐々にですが、構図や画質など初歩的な写真の要素から一歩上の空気感や質感、存在感といった要素で作品を選考できるようになってきたことは嬉しい限りです。 ダム写真の更なる上達を期待しています。
窪田陽一 (埼玉大学大学院理工学研究科教授)

  今回は応募された作品の数に比べて、これはと目に留まる作品がやや少なかったように思う。 そう一言で言ってしまうことは簡単だが、東日本大震災の影響の大きさを考えれば、 撮影の機会が著しく減じた可能性は考慮に入れてしかるべきだろうと自戒しよう。 眼差しと光景の出会いの確率は人知を超えるかもしれないが、人里を離れた現地へ赴き、 撮影機材を抱えて風景と向き合う人々の姿こそ、平穏な社会の持続を映し出していることは確かである。 回を重ねるごとに新たな力作に出会う楽しみがある一方、撮影者の迷いがどことなく伝わってくる作品も、 選には漏れるが、ダムを撮ることの奥深さを思わせる貴重な成果なのかもしれないと思うことがある。 風景を見つめ、対話した軌跡の数々を今後も期待したい。
安河内 孝 (ダム工事総括管理技術者)

  今回の写真は、ほのぼのとした雰囲気を表現したものから、ダムの力強さ及び優しさをキッチリと表現した写真まで、数多く投稿されていました。 特に、夜間及び厳寒での撮影には感動しました。夜間撮影は、明るい時から太陽の沈む位置や月及びライトの位置などを考慮して、場所を選定して撮影を行う必要が有り、大変だと思います。 また、厳寒での撮影も、その場所に行くことだけでも大変かと思います。十分に安全を確保して撮影して下さい。
  毎回「工事中のダム部門」は応募数が少ないです。恐らく建設中は一般の方々が近寄れないためだと思います。 是非その現場のダム担当者の投稿を期待します。今回も数点ありましたが、少し迫力に欠けていたように思います。 全体を写すのも良いのですが、ある作業をアップで捉えるのも良いのでは思います。次回を期待します。
宮島 咲 (ウェブサイト「ダムマニア」管理人)

  今回このフォトコンテストに応募された写真は、幻想的な作品が多かった様な印象を受ける。 最優秀賞に輝いた「月夜の越流」を代表として、「Non Straight World」、「星ふって」、「むらさきの朝」、「静寂の動」、「黒部の太陽」など、独特の世界観を持った作品だと感じた。いずれも闇を利用した写真である。
  前回のコンテストでも、夜のダムを撮影したものが多く見受けられたが、今回も同様であったことは間違いない。 しかし、前回と決定的に異なる点は、同じ夜の写真でも、シャッターチャンスが訪れるまでじっくり待ったり、よりベストな写真を求めて何度もシャッターを切って撮影したという感じが伝わってくるのである。 ダムを撮るというよりも、ダムを含めた作品を作るという雰囲気がヒシヒシと伝わってきた。
  また、「早朝・ひざし」は、堤体の一部のみで造成された光と影を演出する作品。上記にあげた作風とは異なり、ダム以外の他の要素を一切排除した、ストイックな作品に仕上がっていると感じた。 ダムらしいダムの写真、まさしく「ザ・ダム」であろう。

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