ダム湖の旅 〜番外編〜 

ダムツアー参加記



はじめに
  去る5月15日(土)、『ダムサイト』(インターネットホームページ)主催の『ダムツアー』が開催された。当日の天候は晴れ。このダムマニア達の集いの状況を以下に報告する。

1.ツアー概要
  日 時:平成16年5月15日(土) 7:50新宿集合
  目的地:藤原ダム→奈良俣ダム→矢木沢ダム
  参加者:一般参加者 25名
  日本ダム協会関係者 3名


  集合は新宿駅西口。7時10分過ぎにはちらほら参加者と思しき人々が現れるが、バスツアーの出発地点としてポピュラーな当地には『ダムツアー』以外のツアーバスも所狭しと並んでおり、参加者かどうか尋ねるのもはばかられる状況であった。中には作業服にヘルメット姿といういかにもそれらしき風体の人物もいた。
  主催者である岸利透さん(ハンドルネーム)は集合時間ギリギリで登場。主催者がギリギリに現れるとは先が思いやられると思ったが、これには深い理由があったのである。
  参加者の点呼の後、ほぼ予定通りの時刻に出発。

写真-1 かわいらしいダムツアーバス

  バスの中で岸利氏作成のオリジナルレジュメを配布。前日夜から作成していたら、ノッてきてついついのめり込み、全員分をプリントアウトする時間が無くなったという。これがギリギリに到着した原因であった。このレジュメがたいへん良くできていて、そのまま「ダム関係部署の新人研修」に使えそうなほどである。

  新宿からダイレクトに首都高に乗ったため、いきなり渋滞に引っかかるが、出発から約1時間、バスは無事関越自動車道新座料金所を通過。その後はほぼ順調に水上へと向かう。
  バスの中では主催者挨拶及びレジュメの説明がある。なかなか堂に入ったもので、ダムについての一般的な知識は玄人はだしであった。放流設備についての知識なども豊富で、いわゆる『ダムマニア』の中には『ダムの放水・放流』に深い興味を抱いている『ダム放水マニア』とでも呼ぶべき人種が厳然として存在するらしい。
  岸利氏の説明が終わると、それぞれ隣同士での会話が始まるが、聞こえてくるのはダムについての蘊蓄がほとんどであった。中には、「日本における水利権は云々」などという難しい話も。
  途中一度の休憩を挟み、バスは順調に目的地に向かう。水上インターが近づくと、遙か彼方の山脈には未だ消えやらぬ残雪が見えてきた。実はこのことも、今回のツアーに大いに関係があったのであるが、その時はそんなことを想像だにしなかった。
  ほぼ予定通りの10:50に水上ICを降りる。水上・道の駅で参加者を1名拾い、バスは渓谷の道を分け入っていく。
  今日最初の訪問地である『藤原ダム』が近づくに連れ、バスの中がザワつき始める。右車窓の眼下に渓谷が見え始め、藤原ダムの接近が感じられる。土地鑑のある参加者は一眼レフカメラのセットアップを始めた。車窓から上流側を眺めながら、今や遅しとカメラを手に待ちかまえる一行。その時、参加者のひとりが叫んだ。

  「放流しているぞ!」

  この一声で車内に歓声が湧き上がった。見ると、木立を通してクレストゲートから白く輝きながら水が流れ落ちている。車内にシャッター音が続けさまに響き渡った。
  参加者全員の体内のアドレナリン分泌量が一気に増えたのは間違いなかった。


2.藤原ダム
概要:昭和33年3月に完成。西松建設施工による、堤体積415,000m3、堤高95.00m、堤頂長230.00mの重力式コンクリートダム。数年前に天端道路の拡幅工事を終えている。


  ダム管理用道路のゲートには、今日、藤原ダムの説明及び案内をしていただく国土交通省関東地方整備局利根川ダム統合管理事務所の職員の方々が我々の到着を待っておられた。ゲートを開き、管理用道路をダム直下まで先導して頂く。
  いよいよ到着。バスの乗降ドアが開くやいなや、カメラ片手にあたかも檻から放たれた野獣のように参加者たちは駆け出した。

写真-2 藤原ダム見学

  藤原ダムはクレストゲート及びホロージェットバルブから毎秒17m3を放流していた。ダム好きの最も喜ぶ状態である。もちろん、これを狙っての企画なのだが、まさに思惑通りで、参加者一同、ベストポジションを求めてカメラ片手に走り回る。こうなると手のつけようが無い。各自に思い思いに写真を撮ってもらい、少し落ち着きを取り戻すのを待って、管理事務所職員に説明を始めて頂いた。
  管理事務所職員の事業概要、ダムの概要についての説明の後、右岸側の管理用道路を通り、堤体の方へと移動を開始した。

写真-3 ホロージェットバルブからの放水

写真-4 ホロージェットバルブ前にて

  監査廊・エレベータは業務用(点検用)であり階段は急勾配で足元は漏水等で濡れていて一般人は通常、立入禁止なのも肯ける。昭和30年代のダムにも関わらずコンクリート面もきれいで日本の技術力の高さをあらためて感じさせられた。
  初めての方もいた様で、歓声がひっきりなしに通廊内に谺する。職員の方に先導され、減勢工左岸側へ移動した。参加者にはお年を召されたご婦人もいたので、緊張しながらの移動となった。

写真-5 監査廊内部の定礎石

  減勢工左岸では、またしてもベストポジションを探しに明け暮れる参加者。しばし撮影タイム。確かにクレストゲートからの放流はダムの関係者でもそうそうお目にかかれるものではない。我々も、ついつい使命を忘れ、撮影に熱中してしまった。それほどまでに洪水吐きを流れ落ちる水には人を引きつけてやまない魅力がある。
  一行が落ち着きを取り戻したところで、再度監査廊を通り右岸側へ。作業用斜行エレベータ(インクライン)を使用し、二班に分かれ天端へ移動。待ち時間はそれぞれ適当に写真を撮ったり、ダムに見入ったりしながら過ごす。全員が天端でしばらく過ごした後、取水塔へ移動。ぐるりと一周して管理所に立ち寄り、今回のお礼を述べる。お土産にと、藤原ダム写真入りのミネラルウォーターとキーホルダを戴く。全員充分満足しきって藤原ダムを後にした。


3.奈良俣ダム
概要: 平成3年に完成。鹿島・熊谷・日本国土開発施工によるダム堤体積90,000,000m3、堤高158.00m、堤頂長520.00mの日本屈指のロックフィルダム。


 『藤原ダム』での興奮もさめやらぬまま、2番目の目的地『奈良俣ダム』を目指す。
  ダム談議に花を咲かせること15分、テンションは上がりっ放しの参加者を乗せたバスは奈良俣ダム下の駐車場へと到着した。
  いつ見ても、奈良俣ダムの巨大さには圧倒される。重ねて今回は、700段の石段を登ることとなり、身を以て、その大きさを体験することとなった。堤体を歩いて登りたい人は下流駐車場で下車。残りのメンバーは、バスで天端まで移動。約2時間自由行動となった。
  藤原ダムと同じく、奈良俣ダムも丁度洪水吐きから放流中で、その水紋の美しさに目を奪われた。雪解け水の流入が、今回の放流を実現させたようである。雪もまた、天然のダムである事を遠く至仏山などを眺めつつ思いやる。

写真-6 放流中の奈良俣ダム

  事件は、各自昼食をとり自由時間を過ごしている時、起こった。
  参加者のとある女性が、キョロキョロと必死に何かを探している様子。恐る恐る声をかけてみると、「仮排水路トンネルの見学に行った参加者がいる。私も入りたい。置いて行かれた。くやしい。」と、本気で怒っていた。話を聞いてみると、一部の人達は管理所の職員の先導で仮排水トンネルの見学に行ったという。仮排水トンネル?監査廊ではないのか?これは後日調べてみる必要がありそうだと、と脳裏にメモする。
  仮排水トンネル(?)に入った一行は、キノコ型のダム展示館下部のドアから出てきた。通常は施錠されている扉で、これでは遅れてしまったら後から入れはしない。
それにしても、マニアの執念には我々の想像を凌ぐものがある。

4.矢木沢ダム
概要: 昭和42年に完成。熊谷組施工によるダム堤体積570,965m3、堤高131.00m、堤頂長352.00mの非越流型ドームアーチ式コンクリートダム。
主ダムがアーチで、ウイングダムが重力式で、脇ダムがフィルという1つのダムで3つの型式を楽しめるダムマニアにとっては贅沢なダムである。また余水吐がスキージャンプ式になっているのも特徴の一つである。


  午後2時を過ぎると、少々雲が出てきた。当初の予報では今日は雨が降るはずであったので、ここまでもてば御の字である。身体を以てその大きさを体験した奈良俣ダムを後にし、本日のトリを飾る『矢木沢ダム』へと向かう。途中、須田貝ダムも木の間隠れに望見できた。この周辺は「ダム銀座」と言っても過言ではないかも知れない。
  矢木沢ダムが近づくと、『スキージャンプ』という単語が漏れ聞こえてきた。さすがダムマニアの一行、よくご存知だ。
  奈良俣ダムを出て、30分くらい走っただろうか。バスはほぼ満水位に達している矢木沢ダムへ到着。まずは、資料館でスキージャンプ式洪水吐の試験放水のビデオ鑑賞を行なった。参加者全員「へ〜!」のあらし。所長から「今年も放流するかもしれない。」との思いかげない言葉に、場の空気は一変。「自分のカメラで撮影したい。」と、みんなの野望へと変わった。「次の放流はいつですか?」答え「ホームページで発表するので、各自調べて下さい。」
  マニアもすごいが、管理事務所の方もさすがに手馴れたものである。「ダムの寿命は?」とか「矢木沢ダムの堤内には唯一螺旋階段があるそうだが、本当か?」といった、ちょっと答えに窮するような質問もいくつか出たが、とりあえず質疑応答も無事終了。いよいよ本日最後のダム見学が始まった。エレベーターの定員の都合で二班に分かれて行動。水資源機構管理所職員による現場説明及び案内により堤体内の監査廊及びキャットウォークの体験と相成った。

写真-7 矢木沢ダム資料館で説明を受ける

  アーチ式で堤体断面が薄い所為か監査廊断面も小さく大勢で移動するには窮屈であったが、皆我先にと思い思いの行動に出る。
  まずはエレベーターに乗って、第1班は下流低標高部へと降り立った。見学者一同カメラを構えて、矢木沢ダム御本尊を撮影。オーバーハングが圧倒的な迫力を持って一同を包み込む。しかしこれらの感覚はダムマニアには別の次元でやってくるものらしい。喩えて言うなら、寺社へでも参拝しているような……。そういった感覚が、アーチ式コンクリートダムの直下では理解できる。

写真-8 下流面にて御本体撮影

  その後、再度、堤体内に入りエレベーターで中段へ。いよいよマニア達の憧れ、キャットウォークの体験だ!!
  キャットウォークは高所恐怖症気味の参加者にとっては気持ちの良いものではなかったようだが、真のダムマニアは、高所恐怖症では務まらないらしい。くだんの参加者を除き、皆大はしゃぎ。
  あのオーバーハングの手摺から身を乗り出して撮影している者も多かった。中には手摺りに片足を預けポーズをとる猛者もいる。「おい、ちょっと、それはやめておけ」と言おうかとも思ったが、先ほどのダムマニアの執念を思い出し、声は喉の奥で凍り付いたままであった。
  考えてみると、山奥のダムまたダムを探訪し、狭い監査廊をくぐり抜け、目もくらむようなキャットウォークから遙か下方の地面を望む。これは紛れもなく『探検隊』そのものである。ダムマニアは冒険心旺盛な人種なのだ。

写真-9 キャットウォークにて

  最終目的地『矢木沢ダム』の見学会も無事終了するころには、空は一面鉛色の雲に覆われた。考えてみれば良く一日天気がもったものである。ダム好き達の執念のたまものであろうか。天端で記念撮影の後、案内をして頂いた水資源機構の方々に丁寧にお礼を述べ、一行は帰路についた。
  帰りのバスでは、1日の疲れと充足感からであろう、大抵の参加者が熟睡の様子であった。関越道も都内の道路も渋滞もなく順調に流れ、ほぼ予定通りの午後8時15分、新宿駅西口に到着した。


  今後もこのような企画は続けられるそうなので、積極的に参加したいものだと、帰りの電車に揺られながら、そう考えた。


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