第21回 日本ダム協会 写真コンテスト
"D-shot contest"
入賞作品および選評


各委員の全体評

第21回D-shotコンテストは、337点の作品応募がありました。これらの作品を対象に、最優秀賞、優秀賞、入選作品の選考を2024年3月15日に日本ダム協会にて行いました。
その結果、今回は下記の作品が選ばれました。



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最優秀賞
最優秀賞
「STEEL FRAME」
福井県・足羽川ダム
撮影者:ハル
<選評・西山 芳一>

画面のほとんどが大胆にも仮設の鋼製構台で占められ、「ダム施工部門」として応募された本来のダム現場は面積的には脇役のようになっています。しかし、急峻な山間部で施工する重力コンクリート式ダムにとってはこの構台こそが作業の重要な足場となるのです。いずれは撤去される仮設の構造物こそ施工中の影の主役なのかもしれません。スポットライトを浴びた主役を遠目に見て大事な脇役をシルエットで力強く見せているといった主従逆転の目の付け所や見方に敬服です。





「ダム本体」部門

優秀賞
優秀賞
「列を作る」
静岡県・井川ダム
撮影者:enma
<選評・八馬 智>

堤体が岩盤に取り付くフーチングを、直線的な平面構成を意図する抽象絵画のように捉えた作品です。重厚で硬質な部分を切り取ることで造形的な面白さを引き出し、何層にも及ぶ点検用梯子が組み込まれることで、圧倒的なダムのスケール感と人の営みを対比させています。さらに、各層の上面にある光を浴びた緑の存在が強調され、人工環境を凌駕する自然の逞しさに気付かされます。この作品は、ダムには細部に至るまで面白さが潜んでいることを、あらためて教えてくれます。





入選入選
入選 入選
「ほしぞらのしたで」
群馬県・八ッ場ダム
「治める」
栃木県・川治ダム
撮影者:ハル 撮影者:HAMTIY
<選評・八馬 智>

満点の星空をダムの堤体によって切り取る画面構成の大胆さと、コンクリート面の繊細なテクスチャーが見事なバランスで融合している作品です。黒く沈んだ上部から、下部にかけて徐々にコンクリート面が見えてくるグラデーションがある種の神秘性を演出しており、逆光で浮かび上がる塔状の構築物が祭壇のようにも見えてきます。ストレートながらも緻密に積み上げられた表現は、細部に至るまでじっくり見回したくなります。

<選評・八馬 智>

右下の岩盤とフーチングの幾何学的な段差、左側の緩やかなカーブを描くアーチダムの堤体、ダイナミックな中央の放流の水しぶき、そこにうっすらと架かる虹のアーチ、そしてオレンジのジャケットを着た作業員。さまざまな要素をひとつの画面に取り入れて、それらを破綻することなく巧みに構成し、鑑賞者の視線をしっかり誘導しています。明度、彩度、コントラストなどのコントロールも緻密になされており、完成度が極めて高い作品だと感じました。



入選
入選
「拝啓、草原より」
山形県・白川ダム
撮影者:HAMTIY
<選評・八馬 智>

画面手前を斜めの直線で切り取っているのは、ロックフィルの下流側の堤体のようです。画面奥にあるのは、曲がった堤体の一部でしょうか。中央には上部の輪郭が不定形に揺らぐ色鮮やかな草地があり、その左側にはS字を描く道路が通り、端部にはコンクリートの小屋が佇んでいます。一見するだけでは空間の構成が理解できず、じっくり見るとどんどん引き込まれていきます。見るものの感覚を揺るがす、不思議な世界が描かれた作品です。





「ダム湖」部門

優秀賞
優秀賞
「シルエット」
熊本県・立野ダム
撮影者:yamasemi_K
<選評・大西 成明>

熊本地震の復旧工事で全線が開通した南阿蘇鉄道。第一白川橋梁の赤いアーチ橋が峡谷の景色に映えて揺らいでいます。あれもこれもと欲張っていろんな要素を入れて写真を撮りたいところでしょうが、夕日を反射した湖面に映る橋梁に的を絞って、思いっきりのいい力強い写真にまとめたのが成功しています。究極の引き算が、望遠レンズの前ボケ効果と相まって、作者が息を止めて撮ったのかしらと思わせるような繊細さがあります。部分が全体を想像させる、木と風と光の一瞬の饗宴、写真は一刻も待ってはくれません。



入選入選
入選 入選
「投影」
富山県・境川ダム
「ブファー!」
群馬県・須田貝ダム
撮影者:カムカム 撮影者:太田 正実
<選評・大西 成明>

白山連峰を水源とし、急峻なV字谷を形成するダム湖に、天の川がリフレクションする様子を、スケール感たっぷりに、堂々と描き切っています。水面の星の流れ、ずっと向こうまで連なる山並み、手前の典型的なダム湖の光景が、幻想的で悠久の時間の連なりを感じさせます。何万光年の銀河の時間、数十年のダム建設の時間、そして数十秒の写真の露光時間、異なった位相のタイムスケールが、この一枚の写真の中で、奇妙にうたた寝しているのが、何と言ってもこの写真の最大の魅力です。

<選評・大西 成明>

利根川の原流域に点在するダム湖の光景で、湖岸はブナやミズナラといった原生林に囲まれて、自然湖の佇まいを感じさせます。そんな静謐な湖面に映る風景を、作者は「ブファー!」と、あえて縦位置の写真に変換することで、人の顔や猫の顔にも見えたりすることを楽しんでいるようですね。私は小さい頃、万華鏡に夢中になりすぎて目が回り、気持ち悪くなったことがありました。鏡像によるシンメトリー画像は、片や虚像でありながら、実と虚の境が曖昧です。写真の迷宮に足を取られないようにご注意ください。




入選
入選
「水没樹」
滋賀県・永源寺ダム
撮影者:小和泉 春男
<選評・大西 成明>

この写真の水没樹は、斜光線に照らされた白骨のようで、どこか世紀末的な雰囲気を漂わせています。新緑に彩られた爽やかな水没樹には生命力を感じますが、この写真からは、こちらの岸(此岸、この世)と向こうの岸(彼岸、あの世)の間に三途の川があって、まるで舞台の書き割りを見ているような錯覚に陥ります。特に対岸の仄暗さに、吸い込まれていくような不気味さがあり、群青の水を少しアンダーなトーンに仕上げたのが幽明の境を際立たせています。





「工事中のダム」部門

入選入選
入選 入選
「堰生み神話」
岐阜県・内ケ谷ダム
「damTN交差点」
岐阜県・新丸山ダム
撮影者:enma 撮影者:長谷部 勇
<選評・森 日出夫>

内ヶ谷ダム堤体コンクリート打設の最盛期を捉えた一枚です。上流部中央に大型タワークレーンを配して、練られたコンクリートをバケットに入れ、堤体に一回一回運ぶという動作をひたすら繰り返して巨大な堰が積み上げられて行きます。ダム堤体のコンクリート打設のダイナミックな風景を写しながら、靄がかかる紅葉した山岳地帯で、粛々と施工が行われているという静けさが同居するような不思議な作品です。

<選評・森 日出夫>

新丸山ダムは、既設の丸山ダムを抱き込むような形で下流に築堤される再開発ダムです。丸山ダムの洪水処理機能を有したまま構築するもので、工事の難易度も高く、規模も大きな日本有数のダム再開発事業です。写真は、丸山ダム建設当時の仮排水路トンネルと新丸山ダム建設に伴いその仮排水路トンネルを閉塞するために掘られたアクセス用トンネルの交差箇所を写したものです。60年以上前に作られたトンネルと現在掘られたトンネルを同時に見られる貴重な写真で、タイムスリップしてるような幻想的な1枚となってます。



入選
入選
「night construction」
秋田県・成瀬ダム
撮影者:ハル
<選評・森 日出夫>

日本最大のCSG形式ダムである成瀬ダムの夜間打設状況を写した作品です。堤体CSG打設の無人化等最先端技術を多数投入して、現在最盛期を迎えています。打設施工機械が小さく見えますが、このダムがいかに大きいかが分かります。打設時期は、6月初旬だそうですが、夜間照明に照らされたオレンジ色の堤体と、周辺法面コンクリートの雪のような白さとの色調も良く、その中に浮かび上がる施工機械が生き生きと稼働する様が捉えられています。





「ダムに親しむ」部門

優秀賞
優秀賞
「ダム散歩」
山梨県・大野ダム
撮影者:iiysk
<選評・宮島 咲>

作品全体から溢れ出す、ほのぼのとしたほがらかさがポイントです。満開の桜と、ダムの天端を散歩する二人。ゆっくり歩きながら、たわいもない世間話でもしているのでしょうか。ダムを舞台にした、そんな日常が見えてきました。大野ダムは1914年に完成した国内初の本格的発電専用アースダムです。誕生してから110年の月日が経ちました。これだけの時間が流れると、ここにずっと前からある存在と化し、土地に根付いた親しみやすいダムとなっているのでしょう。この作品からそのような雰囲気が伝わってきます。



入選入選
入選 入選
「うまく撮れるかな」
宮城県・鳴子ダム
「華簾」
静岡県・佐久間ダム
撮影者:iiysk 撮影者:HAMTIY
<選評・宮島 咲>

鳴子ダムライトアップの写真です。以前はすだれ放流と呼ばれる放流のみでしたが、2022年はライトアップも加わりました。シャッタースピードを遅くして撮影することにより、放流水が線の様に写しだされています。その線は様々な色で染め上げられ、多様な表情を見せてくれます。その美しさだけでも作品として成り立ちそうですが、右下に人物を入れたところがこの作品の素晴らしいポイント。タイトルの「うまく撮れるかな」は、その人物が放流写真を頑張って撮っている時の気持ちなのでしょう。

<選評・宮島 咲>

佐久間ダムで開催されている竜神まつりの湖上打上花火を撮った作品だと思います。「ダムに親しむ」というジャンルでは、人物が写りこんでいる作品が多いのですが、この作品は違います。ですので、一見するとダムへの親しみを感じませんが、反対側にはこの花火を見る多くの人々がいることが想像できます。その上で、あえて花火だけに着目した点が素晴らしいです。また、右下に紅葉した葉を入れたのもポイントでしょう。左側の煙、中央の花火、右側の紅葉が並び、安定した構図になるよう工夫されています。



入選
入選
「ダムキャンの灯」
岩手県・四十四田ダム
撮影者:ハル
<選評・宮島 咲>

地元の再生事業をおこなう団体が企画した、ダムサイトキャンプの写真でしょうか。普段は禁止されていますが、この日だけはダムサイトにテントを張ることができました。テントを張っている場所は堤体そのもの。コンバイン型式である四十四田ダムのフィル部分にテントを張っているというわけです。いわば、ダムに宿泊しているという事ですね。ダム好きの私としては、とてもうらやましく感じます。そして、作品の構図や露出など、もう、文句のつけどころが無いほど素晴らしいです。





「テーマ」部門 『生』

優秀賞
優秀賞
「ヒシノウミ」
新潟県・鯖石川ダム
撮影者:yfx
<選評・中川 ちひろ>

なんということでしょう。びっしりと埋め尽くすこのヒシ群。この迫力を伝えるべく、写真の3分の1が緑で覆われています。ヒシだけではなく、道路の向こう側にある木々を含め、画面の90%が緑というユニークな、印象に残る構成。少しかがんで撮ったのだと思いますが、そのことにより主題が明確になっています。さらに赤いゲートとのコントラストも美しく、まるで『大草原の小さな家』のよう。タイトルもわかりやすく、ストレートに響く一枚です。



入選 入選
入選 入選
「生」
宮城県・七ヶ宿ダム
「生の営み」
鳥取県・東郷ダム
撮影者:どらいばあ 撮影者:小南 宣広
<選評・中川 ちひろ>

ごつごつとしたコンクリートから、かわいい緑の葉っぱが顔を出しています。どうしても出てきたかったのでしょうね。太陽の光は、おいしいかしら? つい、葉っぱに話しかけたくなる愛おしさです。仕事柄たくさんの「作品」を目にしますが、写真も絵画も、2次元の形をしているようで、じつは3次元だと思っています。やっぱりどうしたって、撮り手やつくり手は、そこに存在するのです。どらいばあさんのやさしいまなざしに、癒されました。

<選評・中川 ちひろ>

はてこれは何でしょう。ヒカリゴケ? と思ったら、ホタルだそうです。この方はコメント欄にこう書かれていました。「ダムに守られたダムの下で、ホタルたちの生命の営み」。私にはダムが生き物を守るという考えがなかったので、ダムがホタルを守るという表現に、撮影者のダムへの愛を感じました。ホタルがたくさん来るピークを待ったとのことですが、私はそんな撮影者さんが待ち構えているすがたを、写真におさめたくなりました。







全体評


審査委員プロフィール
西山 芳一 (土木写真家)

多数のご応募ありがとうございました。ようやくコロナの影響も少なくなり審査委員が全員そろって意見を交わしながらの本来の審査が行えるようになりました。

応募作品に関しては審査員の満票を得るような群を抜いたものの少ない回だったように思います。すでにこのコンテストも21回目、回を重ねるごとに全体的にテクニックは上達しているものの作品のコンセプトが似たりよったりになってしまい、いわゆるマンネリ傾向にあるようにも見えます。ここは一気に独自性を打ち出して打破すれば入賞間違いありません。こんなチャンスは10年に一度くらいしかありませんので思い切った作品の応募を心よりお待ちしております。

八馬 智 (都市鑑賞者/景観デザイン研究者)

たくさんの素晴らしい作品をご応募いただき、どうもありがとうございました。さまざまなアプローチの作品がずらりと並べられた審査会はたいへん盛り上がり、絞り込みに時間がかかる場面も多々ありました。

私はダム本体部門の選評を担当するということもあり、今回は特に物体としてのダムの魅力をどう捉え、どう伝えているかに着目しながら審査会に臨みました。そのせいか、ダム本体の全体を捉える作品よりも、部分や細部を捉える作品が目立つように感じました。それらの作品のアプローチは造形や対比の面白さを表現するものであり、優れた作品はその魅力を引き立てる明快な画面構成だったように思います。

特にダム本体部門においては、全体的に暗いトーンの作品が最終候補に上がりました。それはご応募いただいた作品の偏りが反映されたようです。いろんなバリエーションが見たいと思いつつも、その年ごとのブームがあるのであれば、興味深い現象ですね。次回もさらに多角的なアプローチでご応募いただけると幸いです。

大西 成明 (写真家)

今回の応募作品を見て真っ先に思ったのは、完成度の高い写真を目指すというその志の高さにおいては、かなりのレベルの作品が多い反面、やや「写真に遊び心が足りない」と感じました。多くの写真が、一途に思い描いている写真世界の実現のために最短距離で行こうとしているように見受けられます。特にダム写真のベテランともなると、こう撮ればこうなるという結果が見え過ぎていて、時に寄り道したり、今までの自分の定型を離れて未知の光景と戯れるということが少なくなっているのではと、想像します。写真家の土門拳は「いい写真とは写したのではなくて写ったのである。計算を踏みはずした時だけそういう写真が出来る。ぼくはそれを鬼が手伝った写真と言っている」と、その著『死ぬことと生きること』で書いています。本当にいい写真と言うのは、天候や偶然など自分の力ではどうにもならない「大いなる力」の助けを借りて撮らせてもらった、という謙虚な気持ちの中に芽生えるものかもしれません。

宮島 咲 (ダムマニア&ダムライター)

まず、前回は身体の不調で審査に参加できなかったことをお詫び申し上げます。今年はなんとか回復し、皆様の素晴らしい作品を拝見することができました。

今回は、応募作品数、応募者人数とも前回を上回りました。ですので、様々な感性で撮られた、個性を持った作品が並ぶのかと思いきや、同じような作品が意外と多かった印象でした。

ダム本体部門へ応募された作品はダムの全体像ではなく、一部を切り取った作品が多いように見受けられました。ダムの一部の部分に、美しさやカッコよさ、セクシーさを感じる感覚はとてもよくわかりますが、ぜひともダム全体が写った写真で勝負してほしいとも感じました。

個人的には、ダム湖部門の作品にとても感動した一枚がありました。網場に貯まったゴミを撮った作品なのですが、非常に美しいのです。私の心に刺さりましたが、残念ながら私にしか刺さらなかったようです。ダム湖にゴミを捨てないでというメッセージを持った作品だと思いました。

テーマ部門である「生」は、難しい題材だったように感じます。生物を含めた写真が多かったですが、中には、なぜこれが生なのだろうと思う作品もありました。審査員の「生」を感じ取れる感性を試されている気がしました。来年はどの様なテーマで、どの様な作品を見ることができるのか楽しみです。

中川 ちひろ (編集者)

先日、京都在住の作家を訪ねたとき、こんな話を聞きました。「コロナを経て、自然が本来の力を取り戻しているように感じる。椿の花はいつになく大きく、緑は深い。観光客が一時的に減り、行き交うタクシーも減ったからだろう」と。今となってはコロナ前と変わらない、それどころか一層多くの観光客数となりましたが、自然はとても素直で、人がいなければその力を存分に発揮するのでしょう。

今回、テーマ部門は「生」。やはりほとんどの人が「生命」と結び付けているようでした。このテーマ、とてもよかったと感じています。日常のささやかな、取るに足らないようなことにしあわせを感じる目をもつ人は、人生をたのしむことが上手です。テーマがあることによって、生き物の小さな力をみつけようとする視点が生まれたように感じました。写真が、まなざしが、コメントが皆やさしかったです。

ほとんど人が足を踏み入れないダムのもとで小さな木々は、きっと今日もたくましく生きていることでしょうね。

森 日出夫 (Web広報委員会 委員長)

いつもに増して、多数の応募ありがとうございました。選考ではいつものように頭を悩ませ、かつダムに対する皆さんの愛情あふれる作品に触れられて、楽しい時間を過ごさせて頂きました。ここ2,3年の傾向として、新型コロナ蔓延からの解放を欲するカラフルな色調で、ダイナミックなダムの姿を映したものが多かったのですが、今回は逆に、色調を抑え、堤体の一部をデフォルメする作品が目につきました。写真というものは世相を反映するのものだと改めて感じさせられました。

また、委員が選ぶ作品には、ある程度の票が集まる傾向があるのですが、今回はかなりバラついた印象があります。応募される方の技量に差が無くなってきていると同時に、今までの模倣的なものが多くなってきているのかなと感じます。次回は、あっと驚くような個性的な作品が出てくる事を期待します。


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